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その後、Lさんは社長のMさんを別室へ連れていきました。ふたりがその場からいなくなったとき、私たちは同時に切り出しました。
「ねえねえ、GG・・・。」 「Lさん?」
「そう。」 「うん。そうだね。」ふたりとも同じことを考えていたのです。
「私も一目見てわかった。彼はあの手の人間だって。」 「よくわかったね。おりこうだ。まりつも、ダテに北京にいたわけじゃなかったね。」
「もちろんだヨ! 何人もそういう中国人を見てきたもの。そういう日本人もね。まりつも慣れたヨ。彼らはみんなおんなじ目をしているよね。
話さなくてもすぐにわかる、目を見れば。どの人間もずるそうに薄笑いした、濁った目をしている。」
「そうだ。彼は善良とはいえない。頭はいいが、おそらくすごくずるい・・・。K公司のL.W.とまったく同じものを感じる。」
「うん、わかる。そして、D小姐(シャオジエ:英語のMissに当たる)やK.H.と同じ。」
「そう。だから要注意だ。社長のMさんとは話をしたけれど、彼はLさんとは違う、善良だと思う。話をすればそれは伝わってくる。」
「うん、私もそう思ったよ。穏やかで人がよさそう。ふたりは異質な人間なのに、どうしてMさんはLさんを使うの?」
「彼は会社の利益のためにLさんに依頼しているんだ。Lさんなしではこの会社もやっていけない。同時にLさんはこの会社なくしてはやっていけない。彼らは学生時代からの友人というが、お互いの利害関係で成り立っているんだよ。」
ふたりが戻ってきました。
「いま、社長には話しました。加藤さんのおっしゃるとおりにすすめていきたいと思います。ところで、別の話なんですがね。」
(なんだかあやしくなってきたよ)
「どうですか? S社のことはちょっとおいて、僕といっしょに事業をしませんか? いろいろできると思うんですがね。僕も自分の考えている業務とこの会社を大きくすることに、いま必死なんです。」
(日本人をうまくだまくらかそうっていうやつだね)
「おはずかしい話ですが、私には事業に投資するだけの資金はありません。」 (情けないことに、ワタシの場合ホントーにないんだな)
「投資ではありませんよ。あなたの持っている能力を貸してほしいんです。」 (そーんなことして資格剥奪にでもなったらたいへんだわ)
「たとえば僕の考えているのは、まずS社が天津で事務所をつくることです。合弁でね。そうすればS社もウチも得をします。経費の面でもね。事務所の運営は中国人のほうがベターでしょう。僕のように日本語のできる中国人がね。加藤さんからS社に話してみてくれませんか。」
(詐欺とわかっていて勧められないわ)
「たぶん、あちらにはそこまでの気持ちはないと思いますよ。あれば今回も自分で中国に来るのではないでしょうか。」
「それから、こちらも日本での支店設立を考えています。また、天津で合弁会社をつくる企業があれば、天津のことならまかせてください。加藤さんにはその橋渡しや手続をしてもらいたい。あなたに損はさせませんよ。」
(どんなにボンビーになっても、陰謀に荷担したりしないよ、まりつは)
「私のほしいものはお金ではなく、ビジネス交流を通じて本物の日中友好を築くことなんですよ。それ以外の目的では、申し訳ないのですが動けません。ビジネス・商売の醍醐味は、お金はもちろんかもしれませんが、人と人とのつながりなんです。」
「もちろん、思いは僕も同じですよ。」 (じゃあ、なぜそんな目をしているのかねぇ?)
「僕も日本にいたことがあるんですよ。日本のことは理解しているつもりです。でも、加藤さんのようには日本人とのつながりは持てない。だから、あなたの力がほしいんです。僕らが協力し合えば、こわいものなしですよ。」
(くーっ、うまい勧誘だねぇ、くすぐられるねぇ)
「それはありがとうございます。でも、私にはあなたにご協力できるような力はなんらありません。それから重ねて言いますが、私の目的は本物の日中友好です。それ以外にはありません。」
「わかっていますよ。だからこそ考えておいてください。」
「そうですね。でも、たぶんご希望には添えないと思いますが。」
彼の目は自信ありげに光っていました。きっと、最終的には私がしっぽを振って彼に迎合するとにらんでいるのでしょう。私がもったいぶってじらしていると思っているのでしょう。でも、彼の誘いがどんなものであっても、私にとってはなんの意味も持たないのです。彼の誘いがなんであるかということではなく、彼そのものに信頼がおけないからです。信頼できる相手を持つことができれば、中国でのビジネスは半分は成功したと言ってよいかもしれません。
けれども、これほど難しいこともありません。
それだけに相手の腹の中と人間性を見極めることは最も大事で、また最初に要求されることなのです。
「きょうは、遅くまでどうもありがとうございました。」 「こちらこそ。いい返事をお待ちしてますよ。」
駐車場まで見送ってくれた彼らに別れを告げ、VOLVOは夜更けの天津を走り出します。
「さあ、北京へ帰ろうか。もう11時だ。どうする? 天津で食べていく?」 「うーん・・・ううん、北京へ帰ってからにする。」
「そうだね、そうしようか。」「うん、GG、北京へ帰ろー。」
つづく
(もしかしたら! カレはカレで言っているかも。「あのオンナ行政書士は目が善良じゃない。何人もそういう日本人を見てきたからわかるよ。」って・・・)
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