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「あなた、本当にすべてやめちゃったの?」
「はい。」
「まあ! 王さんから聞いてはいたけど、正直なところ信じ切れなかったのよ。本当にそうしたとはねえ・・・勇気があるのね。」
「勇気があるというのではなくて、自分が自分らしく生きるためだったんです。同時に中国を欺くことはできないという意味でもありました。」
「あなたはよくがんばったわ。王さんによく言ってたんだけど、私があなただったら、さっさと日本に帰ってたわ。きっと中国がいやになったでしょう?」
「いいえ。」
「そんなことないと思うわ。それは信じられないわ。」
「たしかにいろいろありました。私を陥れようとする中国人や日本人に翻弄されました。」
「知ってるわ。まったくひどいことだわ。」
「でも、それ以上に中国を好きだという気持ちのほうが強かったのです。悲しくても苦しくても、私には北京にいることそのものが楽しかったのです。そして、この経験を通して自分なりに中国と中国人を理解しました。それは私の財産です。」
「なぜそんなふうに考えられるの?」
「王さんをはじめ、本当によくしてくれた中国人がいたからです。そして中国が・・・北京が私を受け入れてくれたからです。」
「そうなの・・・。中国が好き?」
「ええ、大好きです。そして、感謝しています。」 彼女はにっこりしました。が、すぐに表情を曇らせました。
「私もね、以前は日本が好きだったのよ。日本人のことも。」 それは初耳でした。
「政府にいたころにね、日本へ研修に行ったことがあるの。そりゃ、日本の印象はよかったわ。でも、K公司にいたことで、日本人が信じられなくなったわ。私はいまでも日本人を恨んでる。K公司で私が受けたことは忘れられないわ。」
そう言って彼女は、「聞いてくれる?」とばかりに過去の屈辱と恨みを一気に語りはじめました。
ありっっっ!たけの思いをこめてまくしたてられる中国語。「中国語のシャワー」を通り越して、まさに「中国語の機関銃」を浴びている気分です。少し東北訛りがある(例えば
シィをスーと発音するので、慣れないうちは聞き取りにくい)とはいえ、ばりばりのキャリアウーマンにふさわしく知的な中国語なのですが、それにしてもすごいテンポ、迫力です。
こ、こわい! まりつはなにも悪いことしてないですぅっ・・・! 言い訳無用! とばかりに、これでもかこれでもかと、容赦なしに言葉の機関銃を浴びせる彼女。飛んでくる、飛んでくる、ついでに唾も飛んでくる!いまやまりつは完全に包囲され、彼女の標的となり、もはや逃げる術がありません。
い、息ができないっ!
た、助けて〜!
はぁ、はぁ、はぁー・・・。
でも、あれ?不思議、不思議。
落ち着いてみると、なぜか彼女の言っていることがよくわかる自分がいます。北京首都空港では、「前に進んで」のたったひとことに反応できなくて、苦笑された哀れなまりつなのにぃ。なぜ彼女の中国語にはついていけるの?
それはきっと、言葉というものは、テーマに対する認識や想像力に助けられながら理解する部分が大きいからだと感じました。そうでなければ、ちょろっと北京→ひたすらぐーたらのまりつに、こーんな早口でまくしたてられる中国語がわかるはずはないのです。
史さん、王さん、そして私。かつての戦友の国境を越えた再会でした。(というのは、ちとオーバーかねぇ?)
つづく
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